紀伊半島のイシダイ釣りは紀伊半島の太平洋側、つまり三重県の大王町から熊野にかけての「紀東」及び、和歌山県の新宮から海南にかけての「南紀」の2県に跨る広大な地域で古くから盛んに行われている。この地域の特徴としては本州最南端に位置し抜群の潮通しを誇り、クチジロの日本記録さえも狙える潮岬に代表され、串本大島や熊野,尾鷲などに多く見られる足下直下の急深磯。田並,下里,南島・南勢町などに多い瀬が点在した比較的に浅い場所といったそれぞれ違った要素を持つ数多くの磯群が列挙するという所である。当然これらに見合った釣り型が育まれ、足下直下の急深磯なら必然的に足下の壁や最下部の際、あるいは溝といった所をポイントにした「宙釣り」やこれに近い釣り型が主流になる。瀬が多く浅い所では、投げられる範囲でその瀬の周辺を狙うことは昔から行われてきた事である。そんな事情から、紀伊半島では足下の「宙釣り」や近投での瀬・溝狙いでも充分な釣果が得られて来たし、現在でもこれらの釣り型で毎年、多くのイシダイが釣り上げられている。
昔から遠くに良い瀬があれば其処を狙おうと遠投を試みた先人は少なからず居た筈である。しかしグラスロッドに代表される一昔も二昔も前のイシダイタックルではどれ程の練習・努力をしても限界があり、恐らくは50mも投げることは出来なかったのではないか。
私がイシダイ釣りを始めた頃はまだ釣具店の陳列棚にはグラスロッドが並んでいたがやがてカーボンロッドが現れた。カーボンロッドには適度な「張り」があり、これが私の求めた「あの瀬の向こう側に」という希望を叶える一因となった。
釣り具メーカーというのはいつも最先端の素材を投入してくる。カーボンはゴルフのシャフトよりロッドの方が早かったし、ボロン、チタン、ゴアッテックスといったものでも釣り界が先ではないかと記憶しています。
私は紀伊半島、特に「紀東」で人よりほんの少し早くからカーボンロッドでの遠投を始めた事により80〜90m先といった今まで未開のポイントを多く見つける事が出来た。そして、それなりの釣果を得る事が出来ただけで、自分こそが紀伊半島での遠投釣りの先駆者などと思ってはいないが、私の経験がこれから石鯛釣りを、遠投釣りをされる方々の為に少しでも役立てば幸いである。
・エサ
エサとしては釣期中、サザエかヤドカリがあれば十分。サザエなら冬場などエサ取りの全くいない時期でも最低2kgは持参したい。エサ取りの多い最盛期ともなれば5~6kg位は必要ではないかと思う。ヤドカリは食い込みの良さに定評があり特に春先にほしいエサである。しかし、本来ヤドカリは伊勢エビ漁の刺し網の一種であるエビ網に伊勢エビの外道として掛かる訳で伊勢エビ漁の10~2月(地域により異なる)以外にはサザエの潜り漁(これも外道)で1匹ずつ捕って貰うことになり、とても釣り師の需要に応えることは出来ない。それに人気のある「オニヤドカリ」ともなればヤドカリ全体の集荷量の3割程度と少なく、とても一般的とは言えない。そこで集荷されるヤドカリの大勢を占める「ヒメヤドカリ」であるが腹部が大きく食い込みは「オニ」以上で私は最近この「ヒメヤドカリ」を主体に釣行している。釣行には冬場で20匹。エサ取りの多い最盛期で50~60匹は必要になる。
付け方としては、サザエなら2個から3個付けで、赤いヘタもそのままつける。ヘタだけになっても石鯛は食らい付くので、エサ取りの多い時には有効だ。また、石鯛が完全にそこに居ると思うようなときには切り目を付けて、食い込みを良くする。
ヤドカリの場合には、手足を取った1尾付けが基本となるが、遠投の必要の無い場合は、丸ごと1尾付ける。また、エサ取りの多い時には頭だけを2個付けあるいは、頭とツメの併用、ツメだけ4個付けといった様な工夫をしたい。
因みに志摩地方で珍味として食用されているのは「ヒメヤドカリ」である。
紀伊半島の釣期は4月下旬から翌1月初旬位までになる。この内最盛期は6月中旬から11月下旬位であるが、超大型となれば乗っ込み時のはしり(4月下旬~5月初旬)と9月中旬から11月中旬に的を絞りたい。また、「南紀」は黒潮の影響を直接的に強く受ける所であり「紀東」は黒潮の反転流が主潮になる。そのため南紀方面は紀東より水温も通常1〜2度高く、時には3〜4度も高い時があり冬場の南紀は大いに期待の持てる釣り場となる。
潮は三重県(紀東側)では沖に向かって、右から左に流れる潮を「真潮」。その逆を「底潮」と呼ぶ。和歌山県(南紀側)では沖に向かって、右から左に流れる潮を「下り潮」。その逆を「昇り潮」と呼ぶ。釣れる潮というのは一概には言えないが、例えばそれまでまったく動かなかった潮が動き出した時とか、逆に激流のように流れていた潮が止まった瞬間という変化のある時には特に注意が必要になる。また、磯や瀬によっては「真潮」或いは「底潮」のどちらかでないと釣れないといった場所があるが、そこが初めての磯ならば振り返って山が海へ没する角度であるとか周りの地形を良く観察することだ。その磯や瀬が海底でどのような状態なのかを想像し、いち早く石鯛の当たる潮を感じ取って其処を攻めなければいけない。
和歌山側の特に潮岬周辺などでは右から左に流れる「下り潮」が絶対条件になる場所があり、近年姿を消したと言われる「本物の下り潮」に過去、「名礁コメツブ」あたりで起きたクチジロラッシュを夢見る往年の関西底物師は多い。
足元直下のどん深な磯は遠投には不向きである。どん深磯は大抵底が砂地とか30m位先まで崩れた岩が堆積し、その先は砂地やフラットな岩盤である事が多く沖に瀬が無ければ遠投する意味が無いからだ。
遠投に適した釣り場とは、海食された山体が瀬やシモリとして海中に点在し、海岸線からは徐々に深みを伴う形がの所が良い。瀬は多ければ多い程そこにイシダイが付いている可能性が高くなり潮通しが良ければさらに期待が持てる。ゴロタ浜も潮通しが良ければ好釣り場に成り得ることは既に実証済みである。
遠投釣りで必需品となる海魂3000Tに20号を巻く時、予めカウンターを表示0にしてからラインを巻き取り、表示が830になるまで巻いた状態が通常の糸巻きの目安になる。
ラインは20mも切れたらもう一度最初から巻き直して常に一定の目安を確保出来るように心がける。ラインがこれ以下になると飛距離以上にカウンター値が出てしまい目安にならないからである。
飛距離はエサが大きすぎると当然抵抗が強く落ちるものであるし、小さければ伸びる事になる、もちろん投げる側の体力や技術によってその差は大きく異なることになる。しかしただやみくもに遠くへ飛ばせば良いというものではない。例えば仕掛けを100m投げても、潮に道糸が押されたり、糸のびが出過ぎたりして正確な底取りが困難となる。つまり=正確な底取りが出来ていない=何処で釣れたか解らないただ、あの方向の何m位だけの交通事故のような釣果になる。潮の余程緩いところなら100m先でも十分な底取りは出来るが石鯛釣りには、通常そこそこの潮は付き物であり余程でない限りこれ程の遠投はしない。主に60m〜80m、糸ふけを取って70m位の所に仕掛けを落着かせる事が出来るようになれば、紀伊半島では大抵の磯で通用する筈である。
投げ型としては上段の構えから左手はリールシート直下を持ち、左脇腹へ向けて強く引き込む。右手は右肩上から前方約45゜の角度へ強く押し出す。サミングの左手親指は右手が、45゜で「バシッ」と止める瞬間に離し仕掛けも45゜のイメージで飛ばす。実際には約30゜位の角度で飛ばすがイメージはあくまで45゜だ。また、フルスウィングが基本になるが向かい風や横風の強い時は押し戻されたり、空中で抵抗を受け飛距離が伸びない。こういう時は約15゜位の低いライナー性で投げると風の影響を受け難い。
底取りは、まず近くを投げて仕掛けを少しづつ手前に引き、竿先や道糸に掛かる重みや抵抗、オモリの落込み具合といった変化を的確に読みとり、次第に距離を長くしていき海底がどの様な状態にあるかを想像するように練習する。
ピトンにセットした竿とラインの角度が90゜に近い程、竿先にアタリが出やすくなるものであるが実際には、足元の宙釣りや近投と違い、超遠投の場合では竿とラインが水平になることが多々ある。これでは肝心なイシダイの前アタリが取れない。だから場所が許せば竿を横向きにして、なるべく角度を保てるように工夫する必要がある。
遠くへ投げて広範囲を探る遠投釣りは根掛かりが多いと思われがちであるが実際には他の釣り型と大差はないものである。これは、私が頻繁に遠征し九州や島根、伊豆諸島の方達と竿を交えた経験から言えることである。しかし、根掛かりをする所とは瀬がきつい場所であり底の変化に富む証拠で有るのだから良いポイントであるには違いない。だから、この根掛かりを恐れていてはイシダイは更に幻となってしまう。
磯とは岩盤が海食されて形成された地形である。この岩盤には層理面や節理面といった岩盤の節の様なものがある。節理面とは縦方行の層理面は横方向の節目みたいな物で、この節が海に向かっている様な磯では当然根掛かりが激しく逆では少ない訳である。これらは磯上からでも目視で確認できることである。
海底には様々な瀬があり、この中で石鯛ポイントとして有望な瀬や溝を見つけたら、駈け上がりの途中とか、溝の中段である比較的根掛かりが少なくサシエが目立つ場所へ仕掛けを軽く落ち着かせる。軽く落ち着かせた仕掛けは楽に回収する事が出来るという利点もある。根掛かりを切る場合はラインの「伸び」を考慮し今までの釣りとの飛距離の差を考えなくてはいけない。仮にこれまでの倍の飛距離で根掛かりをしたなら単純に2倍の伸びが生じる。しかし実際には継ぎ目のない2倍であり確実に、それ以上の伸びが生じるものだ。この伸びさえ充分に取り除けば容易に切断出来る筈だ。切断する場合にはハエ擦れのによる高切れを防ぐ意味でも途中に高い瀬を跨ぐ様なポイントは極力避け、さらに根掛かりを切り易い場所を選ぶことを心がける。
阿曽浦は、紀東一帯でも特に大判石鯛が期待できる名礁が揃う。この付近の海底は変化に富、沈み瀬・シモリ・海溝及び、これらに付植し魚の産卵場となるアラメ・ワカメなどの海草類の群生地が非常に多く、さらに潮通しがすこぶる良いことから南島地区いや、紀東全体でも屈指の漁場である。また禁漁区を多く設けており毎年この禁漁区から魚が供給されることも阿曽浦の大きな魅力といえる。
磯は約20ヶ所程があり、贄湾奥に位置する磯群は秋に実績があり、特に沖が荒れ気味の時は大型が期待出来る。贄湾口のオジマから湾内にかけて立島・一の島・潜水艦・テトラと続くこの付近は春から秋が特に良く60cm級の大型が期待できる。潜水艦は非常に低い磯で、べた凪の大潮の干潮前後しか渡礁出来ないが70cmオーバーの実績がある。
贄湾口の志戸周辺は三角・ナナシ・東のハナレ・西のハナレの4つの離れ磯と志戸本島からなる。全体で30人程度が渡礁出来る。離れ磯はどれも南及び、南東の波には弱いが、志戸本島は余程の荒天でない限りは釣りが出来る。釣期は4月下旬から7月中旬と、9月下旬から11月中旬でこの間は超大型の確率が非常に高い。近年は本島の高場や、ナナシの釣果が目立つ様になってきた。
志戸から広大な禁漁区を挟み、相賀浦との入り会い区になる磯群が赤石・トラフグ・ニュウカイ・サギハナ・フタゴ・サメガ瀬である。特にトラフグ・フタゴ・サメガ瀬では70cm級あるいは70cmオーバーの実績がある。今回は春磯に実績が高いフタゴ島を紹介したい。
フタゴは独立した離れ磯で広さは畳2畳程の小さな磯である。しかし意外と波やウネリに強い一面がある。定員は2名が限度となる。島の周りは砂地が多く、特に沖向きの左半分は殆どが砂地である。したがって、ポイントは沖向きの右半分になる。この沖向きのやや右は砂地にシモリが点在していて、このシモリに仕掛けを止める。約23m・53m・68mで70cmオーバーの実績がある。潮は沖に向かって左から右へと流れる「底潮」が良い。反対の「真潮」でも実績はあるが、比較したなら「底潮」に分がある。釣期は毎年4月末〜7月半ば位と、9月〜11月程度とながい。釣れるサイズは60cmオーバーが多く全体的に大型が揃う。さらに右方向には、74cmの実績があるサメガ瀬があり、この方向は特にシモリが多く、近年ではサメガ瀬方向の57m付近でかなりの良型が釣れている。